短編:待つ
短編。
メールを待つ人と気づいてくれるのを待つ人。
幸せと認識するまで、それは幸せではないのでしょう。
「……もう来ないとおもうよ」
私の言葉には返事もせず、腐れ縁の悪友はじっと携帯電話を見ている。じっと。
大好きな誰かに送ったメール。三十分おきくらいに返信が来て、数回、送信受信を繰り返して、もう今は一時五十分だ。流石に相手は寝たんじゃないか、と私は欠伸を噛み殺しながら思う。
でも悪友は待っている。すがるように待っている。私の話なんて聞いちゃいない。十二時にも十二時半にも、一時にも一時半にも、私はおんなじことを言ったけれど、やっぱり聞いちゃくれなかった。くそう。そしてそれで正しかった。大好きな誰かは寝ていなくて、この悪友に返信をよこしたのだから。
今、デジタルの時計は二時十二分を知らせている。悪友は悲しそうな顔をしている。ああ、でも、そんな顔をしないでほしい。私は携帯電話を取り出して、ぽちぽちと文字を打ち始める。手紙のマークのボタンを押してしばらくすると、ヴー、と間抜けな音を出して、携帯電話が受信を告げた。ぱあ、と明るくなる顔。携帯電話を開く音。けれどすぐに怪訝な顔になって、そしてまたすぐに、くしゃりと目を細めて。「ありがとう」なんて私に言う。
もう寝ようよ、と私はそっぽを向いて言った。うん、と悪友は笑う。
この悪友は、そろそろ、私がこんな時間まで付き合っている理由に、気付いてくれても良いんじゃないかと思う。さっきのメールを本気にしてくれても良いんじゃないかて思う。私はあと、どれくらい待てば気づいて貰えるのか。何も知らずに寝息をたてる悪友の頬に、私はそっと唇を落とした。
PR