忍者ブログ

それでも君を*****。――別館

(日常とか解説とか)

2024.11│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

長編:ピンクの花にさようなら 1

長編:ピンクの花にさようなら 1
一歩前に踏み出す人と昔にすがる人。
タイトルの語呂が好きです。
色々なミュージカルの要素を詰め込みました。



シャンクスが死んだ。呆気のない死に方だった。
いつもは、サラダを盛った皿を持ってリビングへ移動しようとする私に、媚びたようにまとわりついてくるシャンクスが、今日は珍しく大人しい、などと思っていたら、シャンクスは私のベッドの端で、縮こまって冷たくなっていた。
当然だが、シャンクスは老いてもいなかったし、大病を患ってもいなかった。だからといって外傷が見当たるわけでもなく、ああ、これが突然死というやつか、などとぼんやり思った私は、ドレッサーの一番上の引き出しから、濃い紫の小さな箱を取り出し、遠慮がちに佇む小さな指輪を薬指に嵌め込んだ。その指でワイヤレスの子機のダイヤルを機械的に押す。「もしもし――ねえ、シャンクスが死んでしまったの」。



がたがたと車が揺れた。
「あのときはびっくりしたよ。二言目に『結婚しましょう』だもの」
いとおしむように薬指を盗見ながら、男は幸せそうに呟く。それに気付いた女は一瞬曇った表情を見せ、ええ、そうね、とだけ答えた。
車はのろのろと車道を走っている。休日の早朝は、人気がなくて、街は眠っているようだった。
「……ねえ、本当に私で良いの?」
唐突な女の言葉に男は目を丸くして、緩やかにブレーキを踏み、そっと手を取った。「当たり前だろう?」。
それから赤ん坊が寝返りをうつくらいの時間が流れて、女は静かに言った。
「はなしをきいてもらえる?」
エアコンの音が響く。
「はなしをきいて――それでも、私で良いと言ってくれる――?」



シャンクスは死んだ。そしてあの子も、どこかで死んだのだ。

拍手

PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
*TRACKBACK-トラックバック-
  • この記事のURLとトラックバックURLです。
  • 必要に応じてご使用くださいませ。
この記事のURL▼
この記事のトラックバックURL▼
ブログ内検索
カウンター
最新コメント
[08/31 rowan]
[01/10 rowan]
アクセス解析