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それでも君を*****。――別館

(日常とか解説とか)

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短編:捧げる/鈍

短編:捧げる/鈍
長いことこねくりまわしていた話がなんとなく形になりました。
もしかして 中編



そういえば昔、私がまだ学生だった頃に、変なクラスメートたちがいた。

一人はがたいが良い長身で、もう一人は中肉中背の内気な少女。二人は主従関係で結ばれていた。(的はずれな言葉かもしれない、が、それを的確に表す言葉を私は知らないから、便宜上そうしておく)

背の高い方は高圧的で高飛車だった。
勉強は常に学年二番。生徒副会長を務めていて、頭が良くて仕事もできる。実力の上の自信が、彼女の態度を尊大にした。尊大だけれど理不尽ではなかったので、ひとつのことを除いては、誰も華やかな彼女を悪く言わなかった。

全体的に平均値の方は、どことなく陰気な長い髪を持っていた。
成績は中の中。これといって目立つところは無く、いたって地味。クラスの中でも大人しい集団に属する筈の彼女は、どういうわけか、長身で華やかな生徒副会長に侍っていた。

長身の生徒副会長は、彼女を顎で使っていた。彼女もそれに従っていた。理不尽ではないけれど、友人に日常的にさせるわけがないことを、彼女はさせられていた。登下校の時、荷物を持たせていた。昼食のパンを買いに、走らせていた。例を上げればきりがない。級友達もその異常さに気付いてはいたし、多少なりとも陰口を叩くことはあった、が、取り立てて騒ぐことはしなかった。何故生徒副会長が長髪のクラスメートを選んだのか、何故長髪のクラスメートが生徒副会長に付き従うのか、その本当の理由は誰も知らなかったし、華やかな生徒副会長は、それでも有り余るほどの人望があったのだ。


ある日私は日直の当番にあてられて、放課後の教室に残っていた。もう一人の当番は例の生徒副会長だったが、当然のように長髪の級友がそこにいて、日誌を書いていた。
「何から何まであの子は君にやらせるんだね。まるで子供だ」
皮肉げに言うと級友は日誌から目を離さずに、いいんです、とだけ言う。
「君は、なんでそう、副会長に付き従うような真似をするんだい?」
私が聞くと長髪は怪訝な顔をして顔を上げる。そして目を細めた後、言った。
「そうですね――好きだからじゃないでしょうか」
成る程、そういう倒錯した関係もあるのかと、妙に納得した記憶がある。
開いた窓から入り込んでくる風が冷たい、ある冬の日だった。


学校を卒業してから何年か経ち、同窓会かなにかで生徒元副会長に会う機会があった。何かの拍子に例の主従関係を思い出した私は、気まぐれでことの真偽を尋ねてみることにしたのだ、が、生徒元副会長はその話を聞いた途端、綺麗に整えた顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めた。
かつて自信を迸らせて堂々としていた彼女が泣いているのを、かつてのクラスメート達は遠巻きに見ている。私は居たたまれない気持ちで、床をぼんやりと見ていた。


その翌年の同窓会に生徒元副会長は来なかった。変わりにあの長髪――尤も、今はかの陰気な長髪は切ってしまって、そう呼ぶのは相応しくないのだが――が来ていて、そして私にこう言った。
「生徒元副会長は生徒会長のことが好きでした。元副会長は聡明である故に、自分が会長に興味を持たれていないと知っていました。また同時に、会長が好きなのが私であることも。でも会長は、元副会長にも私にも何もしませんでした。徹底的に不干渉を貫いていました。ですからせめてもの抵抗として、彼女は私を侍らせました。私は元副会長が好きでしたから、異論なく従いました。元副会長が見ているのは、私でなくて会長でした。いつも、私を通して会長を見ていました。けれど。それで上手くいっていたんです。会長が彼女を副会長から下ろし、私を副会長にするまでは。」

そういえばそんなこともあったかもしれない、と、首を捻る。嗚呼、と、長髪が嘆く。

「貴女は何も気づいていなかったんですね。元副会長の気持ちにも、自分の気持ちにさえも。何故、何故、あの時、私たちを放っておいてくれなかったのですか。生徒会長さん――。」

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