短編:補う
短編:補う
表面的に上手くいっていればそれで良いというかなしい風潮。
本質的な解決が望めない場合が大多数なので、誰も否定は出来ないのです。
わたしは彼女に大好き、と言いました。彼女は嬉しそうな顔をし、ありがとう、と言いました。私は彼女が好きでしたので、そんな彼女を見るたびに、とても穏やかな気持ちになりました。
彼女が私に大好き、とよく言うことは、クラスの皆が知っていました。彼女が大好き、と言う度に、皆は温かい目で私達を見ました。小さな子供が母親に、大好き、と舌っ足らずに言うような、そんな無邪気さを彼女は持っていたのです。
彼女はずっと私のそばをついて回って、私はずっと彼女の世話をしていました。彼女は健全な少女でしたが、昨日の曜日が思い出せなかったり、校内履きのまま帰ろうとしたりと、どこか抜けたところがあったので、誰かが傍についていて、あれやこれやを注意しなければならなかったのです。
私が何かを注意するたびに、――、大好き、と彼女は言いました。私はありがとう、と答えました。けれども、本当は知っています。彼女は私のことが好きな、ましてや大好きなわけでもないことを。彼女は、彼女も、自分が一人では正しく生きていけないと知っているのです。だから、私に、大好きなどと言います。そうしていれば、私が彼女のそばから離れていかないと、知っているのです。
彼女はなにも出来ないわたしのために、あれやこれやと注意をしてくれます。まるで母親のように、わたしを見守ってくれます。
でも、わたしは知っています。彼女は、わたしが好きな、まして大好きなわけではないと。その自尊心を充たすために、彼女はわたしが、一人では正しく生きていけないわたしが、そばにいなければいけないのです。
だから私に、ありがとう、などと言います。そうしているうちは、わたしが離れていかないと、知っているのです。
彼女は私に大好き、と言いました。私は彼女のことが好きでしたので、ありがとう、と言いました。彼女は嬉しそうな顔をし、そんな彼女を見るたびに、私は穏やかな気持ちになりました。
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