短編:なぶる
久しぶりの更新。
もしかすると、続くかもしれません。
あんたって、本当にばかよね。そう言うと彼女はわざとらしく眉を下げ、いかにも傷付いた、という顔を作った。ひどいなあ。
ごめんね、うそよ、と取り消すと、下がった眉は元の位置に戻り、へらりと笑う――そんな挨拶。わたしは彼女を突き放し、彼女は傷付いたふりをする。
あまり表情を変えない彼女は、わざとらしく顔を作る。わたしがどんな話をしても、そうなんだ、と口の端をあげるだけ。なにを話しても、なにを言っても、彼女はどこか別の場所を見ていて、それでいてゆるやかな笑顔しかくれない。それなら、とわたしは彼女に冷たい言葉をかけてみた。それでも。彼女はこうして笑った顔を作るだけだった。
何度やってもそんな調子で、もしかしたらこの子は、言葉で傷つく、ということが分からないのかもしれない、などと思いながら私も飽きずに氷点下の言葉を投げ続けた。次第にそれは形骸化し、そして今日も言ったのだ。一時間に一本しかない電車を、朝財布を忘れたばっかりに乗り過ごした話をした彼女に。ばかじゃないの。
しかし今度は、今回は――へらりと笑った目が、濁り、あ、と思ったときに涙は頬を伝い、地面に落ちていた。ごめんね、ごめんね、と繰り返す彼女にわたしは、彼女を笑わせる言葉が今も、何の意味も持たないことを知った。それから、わたしが彼女に取り返しのつかないことをしていたことも――知ったのだ。
(110122)